葬送曲


赤い吐息が
蒼い空に溶けた
黄金の太陽を隠す
白い雲の行方を追う

甘い香が満ちた庭園で
苦い涙を飲み込んだ
辛辣な何時もの言葉も
酸化したように鈍く

白百合を飾り立てようか
バラバラバラ
桜の花弁が舞い落つる
朧の幻のように

晴れ渡った空を
雲が流れて
雨が一滴
場違いにも零れた

貴方の頬を伝う其れは
最後まで
貴方が拒否した涙のよう
綺麗な綺麗な涙のよう



優しい貴方の掌が
私の頬を辿って
哀しい微笑が
さよならを告げた

あんなにも
色鮮やかな世界が
音を立てて
色を消していく

ずっと一緒と
貴方が言ったのに
私を独り
残していくのね

結んだ小指が放されて
貴方が居なくなっただけなのに
呼吸の仕方すら
思い出せない

綺麗な貴方の瞳を隠して
覗いた瞼の裏は
貴方が何より欲しがった
綺麗で優しい優しい場所?

ありがとうと
最後まで口に出来ずに
嗚咽と漏れた
さよなら



祈りを辿り千に手折った色を繋ぎ
綺麗な音色へと変えて
語り部は響かせる
唯それだけが演奏家に出来る全て

千切れた音色を手繰り寄せ
優しい唄へと変えて
踊り子は歌う
唯それだけが唄歌いに出来る全て

柔らかに手折られた
慰みに千切れた幸福を
哀しく柔らかな音で唄って
吟遊詩人は語る

哀しく綺麗な物語を
強く孤高な言葉を
幻を縫うように纏め上げた
切なく狂おしい幸福な夢



なしいと囁く声が
えないと喉を叩く音が
みしいと何度も呼ぶ
だ此処に居てと
なんどもなんども願う

いねいに紡ぐ言葉
つか凍えて落ちて
ぜなんて数えて
つのまにか諦めた
だえた道

いじょうぶだと抱いて
んびんだって
まいはしない
まんばかり覚えて
じを張っては悼んで

らいと泣く
った一人で

かみさまがいるなら
如何してこんなに理不尽なの



一発の銃声
錠の落ちる音
唐突に訪れた終焉

空っぽの掌
剥き出しの足
泥だらけの爪先
投げ出された両の手

降りしきる凍雨
周到に用意された虹の朝
舞い踊る薔薇の花弁
張り巡らされた茨の嘘

瞳を覆い隠した瞼
こびり付いた痕
恐ろしく長い夜
永遠と詠った光

長く響く悲鳴
扉の閉まる音
唐突に訪れる終焉



瞼の裏に
刻み付けた
色鮮やかな永遠

灰色がかった
靄が浸食した未来
飛散する水滴の軌道

赤き散華
腕に残る鈍痛と
胸を抉る光の終焉



道化師も
詠謳いも
悪魔も
死神も

狂うように叫んだ
祈るように紡いだ
願うように泣いた

慟哭すら溶けた
大地を憐れみ
天使は瞳を伏せた




一呼吸、その間に忍び寄り、瞬く、その頃には寄り添って。背中合わせにぴったりと、影のように寄り添いながら、生きていく。
生きているから、訪れる―――終焉。

2007.06.10