すすり泣く 沈痛な面持ちの 黒い集団 接吻を待つ 白雪姫は 硝子の棺 七人の小人は 小さな小屋で 質素な生活 森の迷路を 彷徨うばかりの お馬に跨る王子 組んだ手で 神に祈りを 嗚咽ばかりが漏れて 神は居ないと誰かが呟いた 人魚姫になれなかったと 嘆きながら 貴方は空を見上げた 雨が降っていればまだ 格好は着いただろうかと 場違いなほど蒼い天を仰いで 口を噤む 華やかな香を撒き散らして 色鮮やかな花が咲き誇る花園の 花も実も成らぬ蔦が這う アーチを横目に 泣き叫びもせず貴方は囁く 風が浚う小さな音色が 王子様に届けば良いのに 黄金の光に満ちた彼の傍で 小鳥が歌うように囀った 何処までも幸福に満ちた場所で 人魚姫にもなれなかったと 嘆きながら 蒼い空を仰いだ 踏み入らないで 土足のままで 踏み鳴らさないで 足音を潜めて 閉じた扉をノックして 柵を越えて踏み分けないで 茨も野薔薇も 其処には何も無いけど 踏み荒らさないで 花も無いお庭 枯れた泉に押し付けないで 歩いた証の靴痕 踏み入らないで 土足のままで 柔らかな土の上辿らないで 素足のままで マリンブルーの夢を見た イルカは空を越えて 雲を一つ飲み込んだ その背に羽など無くても その先に確実なものなど無くても 鯨は夜を越えて 月を一欠け飲み込んだ マリンブルーの夢の中 蒼い海の中 見上げた空はまだらに光る 赤いハイビスカス 桃色に輝く貝殻 白い真珠の髪飾り 水底から見上げる 夢の世界は 綺麗で綺麗な御伽噺 奏でて響く音色は 空泡の如く弾けて解ける 真珠になり損ねた涙は 塩水と解けて 空気になり損ねた人魚は 独り歌い続ける 切なく哀しいあいの歌 貴方を思って 独り奏でる請いの歌 思い響く乞いの歌 柔くなぞる恋の歌 めでたしめでたし と語り手は口を噤んだ 哀しい事を乗り越えて 進む強さは 大丈夫 胸の中にちゃんとある 切ない日々を踏みしめて 這いつくばっても 歩く勇気は 大丈夫 君の中にちゃんとある 幸福を噛み締めて 生きる力は 大丈夫 ここにちゃんとある 綺麗な御伽噺が 残酷な寓話でも 慰みのオハナシでも 欺瞞に満ちた世迷いごとでも 大丈夫 めでたしの先も 幸せのまま きっと居られる めでたしめでたし と語り手は言葉を結んだ 祈るように願うように 御伽噺はめでたしめでたし、で終わるけれど、現実にはめでたしめでたし、に続きがあって。 めでたしめでたしのその先を、考えると切なくなるのは如何してだろう。 これから起こるだろう哀しみや切なさや苦しさを乗り越える事は難しいと思うから? だから願うように、思う。 めでたしめでたしの、その先にも。幸せがループしているように。 2007.06.10 |