夏の終わり


強い日差しが緩やかになり
繋いだ両手が嬉しくなる頃
長い夏は終わりを告げる

夏と同時に訪れた秋が
夏を飲み込み始める頃
小さな宝物だけを手に
目まぐるしい日々に飲み込まれる

蝉が最後の求愛を終えて
太陽が夜に追い越され
静かな終わりを告げる頃
私は貴方を思い出す

麦藁帽の似合う縁側と
汗のかいた麦茶
黒い肌に露と浮かぶ汗

くしゃくしゃの皺
皺だらけの掌
向日葵が頭を擡げる
耳に残る夏の音色



遠くに伸びる飛行機雲見送って
青く染まる小鳥の羽
バイバイ
空に翳した手振ってみせた

雨が降り雲が立ち込め嵐になっても
むき出しの地面がコンクリートに覆われ
小さな花が消えてしまっても
私は絶対に忘れないから

朱い落日が呼び寄せる昨日に消えた海の向こうで
現在にこびり付いた残滓が
波の狭間で ぷ か り 浮いては沈んだ
バイバイ
高く伸ばした腕を振ってみせた

星が零れて空が堕ち大地が削げ落ちても
空を泳ぐ鳥の群れが海の底に沈んで
歌うイルカが瞳を伏せて空を飛んでも
私は絶対に忘れないから

昨日にこびり付かせた残滓が
波にさらわれて消えて行く
忘れ去られる彼岸の向こうで
声を限りに何度も叫ぶ

バイバイ

バイバイ

バイバイ

私だけは忘れないから



夜空に咲く花を
傘差し二人で
見た夏を
貴方はもう
忘れたかしら

終焉ばかりを
気にして
さよならばかりを
見続けて
凍りついた笑みに

貴方は気付いていたかしら

手を放したくないと
駄々を捏ねるのは
何時も私で
放されていくのも
何時も私だった

夜空に咲く花を
何も考えず
唯見上げ続ければ
嗚呼
そうしておけば良かった

直ぐにでも
終焉が訪れたとしても
次の夏は
何処にも無かったとしても

あの夏は
確かに其処に
貴方の傍にあったから



見るも無残と
透明な瞳で天を仰ぐ堕ちた蝉
暮れ行く夏に縋りつく
つくつくほうしを尻目に
合唱を始めた鈴虫

幻燈の蜃気楼が
露と消えた頃
大太鼓を掻き鳴らし
風鈴を打ち鳴らし
雷様は走り去る

頭を擡げた向日葵が
祈りの季節を終える頃
太陽が眩く輝く
真っ青な空の向こうに
飛行機が描く白い一本の線

夏の終わり



夏といえば田舎!……というか普通に実家が田舎で母屋(笑)
夏は毎年ぐったりしながら、秋を待ち望んでます。
秋の密やかさと切なさが好きです。
最近秋が短くて、切ない事この上ないです。
でも夏って楽しい事も多いんですよね、花火も縁日もお泊り会も大好きでした。
今はもう出来ない事も多いけど。大人って不便。不便って云うか、何て云うか。

2007.11.17